「せんせー、また明日ねー」

屈託のない笑顔で手を振る子どもに、隆也は同じように笑顔で手を振り応える。

母親に手をひかれ、ピョコピョコと歩くその女の子の姿は、もう19時を過ぎた周りの暗さも手伝ってすぐに見えなくなった。

ここは小さな保育園。
少子化が進んでいると言われる世の中ではあるものの、それに比例するように増えている“働く女性”のおかげで、夜間保育のあるこの保育園はなかなか人気が高い。

「あら、秋津先生、今日はもうお帰り?」

エプロンを外し帰り支度を始めていた隆也に、同じく保育園で働く保育士が声をかけてきた。

「えぇ、今日は―・・・」

隆也が返事をする前に、近くにいた園長が答える。

「今日は給料日だもんなぁ~」

豪快にガハハと笑いながら隆也の肩をバンバン叩くその髭面と風貌は、まるでクマに近い。

髭を剃れば子ども達に多少は怖がられなくなるのに…、なんて頭に浮かんだ言葉を急いで飲み込んだ。

「じゃぁ、お先に失礼します」

挨拶もそこそこに保育園から飛び出す。
19時を過ぎた今、隆也に雑談をしている暇はなかった。