玄関の扉を開けて、多分まず、あたしは目を丸くしていたんだと思う。


そして抱き付いたのも多分、あたしからだろう。



「そんなに俺に会いたかったんだ?」


彼はそう、小憎たらしく口元を上げ、わざとのように言葉にした。


鼻腔をくすぐるのはカルバン・クラインの香水と、煙草の混じり合った香りで、抱き付いた男の体は今日も、冷たいものだった。



「連絡してから来てよ、ジル。」


「面倒じゃん、そういうの。
俺、一分後には気が変わったりする人間だし、電話したら約束したことになるだろ?」


そんな風に言いながらも、あたしを振り解かないのはジルなりの優しさなのかもしれない。


そして、考えるより早くに飛び付くように抱き付いてしまった自分自身は、彼を焦がれるように待ちわびていた証拠だろう。



「じゃあ今日は、どんな気分でここに来たの?」


「自分ち帰ろうと思ったんだけどさ、暖房ついてねぇ部屋って寒いし。
独りで凍えてるなんて無理だと思わねぇ?」


どんだけ寒がりなんだよ、と思ったけど、それでもあたしの部屋に来てくれた、ってことだけで、単純に嬉しくなってしまった。


理由はどうあれ、彼は今、あたしのところに来たい気分だった、ってことだから。


暖房をガンガンにつけていて、今日ほど良かったと思ったことはない。



「早く冬が終わんねぇかなぁ。」


「まだ始まったばっかじゃん。」


そう言って笑いながら、あたしはジルから体を離した。


冬が終わったら、コイツがあたしに会いに来る理由がひとつ減ってしまうのだと思うと、そんなことが悲しかったからだ。


てか、春までこの関係が続くなんて保証すら、どこにもないのだし。