どうして、心はうまく伝わらないのだろう。

どうして、言葉はうまく伝わらないんだろう。



言葉って難しい。







――――……
―――…



目を覚ますと、愛おしい人の顔があたり前のようにすぐ傍にある。

少し癖のついた黒髪が、瞼を隠してしまっている。
あたしは、彼の前髪に手を伸ばす。


「ん……」


彼は、閉じていた目をピクリと動かして、また深い息をする。



いつも通りの朝。



安らかな寝息をたてる慶介を眺めていると、昨夜の事が鮮明に甦ってきてあたしはビクリと震え、慶介の前髪から手を引っ込めた。



いつもと違う朝。



それは……




―――――……
―――……



「……ごめん」


2度目の慶介の謝罪。

なんの“ごめん”なんだろう……


冷静な頭とは、裏腹に体は小刻みに震えていた事に気づいた。



さっきの“ごめん”は、きっとこれだ……





慶介は、そう言うと、何かを言いかけたように半開きになったままの唇をキュッと閉じてしまった。



あたしを熱っぽく見つめていたその瞳も
いつの間にか伏せられていて長い睫毛に隠されている。



そして、もう1度開けられた瞳の中には、いつもの慶介が戻っていた。



「怖かった? ごめんな。今日はもう寝よう」



そう言って、あたしの手首を握っていた慶介の大きな手は静かに離れていった。

ほんの少し、眉を下げて笑う慶介。


今度こそ、あたしに背を向けて布団に潜ってしまった。