「事によると、幾日も帰れぬやも知れぬ。万一の時を心しておかれよ。 恵弾」
 一枚目はそこで終わっている。まだ墨が乾ききっていない。

「二枚目には何と」
 丹祢に促され、恵孝は二枚目を見た。こちらは墨こそ乾いているが、かなり慌てて書かれたようで、文字が走っている。

「これは……」
 ざっと目を通して、恵孝は言葉を繋ごうとした。富幸が唾を飲み込む。
「大事、のあらましでしょう」
「教えておくれ」


「宮中より下知、出向のこと。負傷者多数。怪我、捻挫、熱病等。意識あり。ただし、一名を除く。昨晩、王女出奔し、兵士捜索す。見つからず、雨中、多数負傷し、或いは熱病患う」
「だらしのない兵士だこと」
 丹祢は忌憚のない感想を呟いた。恵孝は苦笑する。

「姫様は見つかったのかい」
「続きをお読みなさいよ」
 祖母と母の催促に、恵孝は手紙へ目を戻した。