第十の月 二十五日

 行軍が止まる。楴明千も足を止めた。辺りは濃い霧に包まれている。
 物見が出た。しばらく待つことになる。隊は静かだが、緊張感のない空気が漂う。疲労ではなく、不満感だ。

 大河を渡って、北へ三日、東へ二日、もう一度大河を越えて、西へ四日、更に北へ六日。そう進めば深仙山に辿り着くと杏恵弾の母は言った。今、城を出て八日目の昼を過ぎた。来た道を戻るように西へ進んできたのだ。
 あの雨の夜から、深く眠れていない。そのための疲労では決してない。何をどう考えても納得がいかない。

「明千」 
 隣で呆れ顔をしている男がいる。
「小難しい顔しやがって」
 潜めているが笑い声だ。
 杜芳空は明千の同年で、見るからにがたいのいい、そして愛嬌のある男だ。明千は城や城下町の警護が平時の仕事であるのに対し、芳空は橋や道路などの土木工事を担う工兵だ。捜索隊に選ばれてからは、同期のよしみと何かと行動を共にすることが多い。
「難しい顔にもなる。そもそも」
「お前の話は真面目でつまらねえからいいよ。それより見てくれ」
 芳空は手に持った布を広げた。