あるではないか。

 知らせを聞いた王、桟章は呟いた。
 文書方に命じ、国の保管するあらゆる文章の中に何か、恭姫の命を救う記述はないかと探させていたのだ。しかし、「国の保管する」文章には限りがある。この国はまだ若い。章王の祖父が建てた国である。歴史のある文書、貴重な書状の類は、戦乱の劫火にまみえて多く消失していた。

「深仙山の蛙が持つ妙薬、とな」
 夜更けであるが、構わず、殿医の暁晏を呼び出した。暁晏は伏し目がちに相槌を打つ。
「陛下、『ガマの油』でございましょう。あれは我々も使いますが……姫の傷、あの蛇殺し草の毒に効くという話は聴いたことがありません。第一、」
 伝説の、という言葉を戴いている。そのようなもの、どう頼る。

 章王は首を振った。
「暁晏。余は、あらゆる可能性にすがりたい。娘を助けたい」