まず風呂を馳走になることになった。

 当時としては珍しい釜風呂で垢を落とした。湯が真っ黒になったが生きた心地がした。来ていた着物は捨吉が洗ってくれると言って、麻の帷子(浴衣に使われた長小袖)に着替え、畳の間に通された。

 膳には、麦と玄米の飯と粕漬けの魚を焼いてあり、京菜の漬け物がどっさりと盛ってある。横に瓶子(徳利)と杯が置いてあった。

 修理は頬に唾が溜まるのを感じながら飯に食らいつく!
 うまい!まともな飯は育った場所でさえもあまり喰ったことはない。お母様が生きていた頃はそうだったと父上が言っていたが・・・

 すると障子がするりと開き、誰かが入ってくる!膳のそばの燭台では足下しか見えない。やはり麻の帷子を着て燭台を持っている。
 その照らされた顔を見て修理は驚いた!

 万作!

 戒めは解かれ、髪は乱れを直し良く梳いたようだ。艶やかな後ろ髪が肩に垂れていた。
「・・・私は・・・放して頂きました。お許しを」

 修理は、持った椀と箸をいつでも投げつけられる様に気を配した。
「・・・何も致しませぬ。おさんどんをやるために来ました。お気にくわなかったら斬って下さい」

 修理の右前に座った。殺気はなかった。寸鉄も帯びていない様だ。
 空になった椀を出すと万作はそれを取って飯を盛った。おなごのような優しさはないが、動きは優雅だった。

 瓶子から杯に酒を注ぎ、それを差し出す。
「・・・修理様は何流をお使いになるのですか?先ほどの腕前、感服致しました」
「陰流に自分なりの工夫をしたものじゃ」
 修理は警戒して酒を飲まない。
「では・・・私が頂きます」

 万作は両手を添えて杯を口に持っていった。