初老の中間の名は捨吉と言った。

 そして番所ではなく、彼の主人の屋敷にまず少年を連れて来てくれと頼む。
(ま・・・よいか。飯とねぐらくらいはありつけるかも知れぬ)

 捨吉は番人の居ない下京の門を選んで修理を案内した。不破と呼ばれた若衆は、戒められたまま縄目を修理に持たれ、下を向いて歩いた。だが、その辻斬りらしくない凛とした姿は、高貴な雰囲気を醸し出していた。

(位の高い武家に仕える者のようだが・・・はて?)
 夜も暮れているため人通りはなかった。

 伏見の一角にある簡素な板塀の屋敷に入った。
 板張りの床の部屋に通され待たされた。緇小袖は修理の右横の前に座り、首を垂れている。逃げるでもない。
 戒められた胸が小さく呼吸をする様が可愛らしい。

 捨吉とその主人が出てきた。
 主人は上座でなく修理の横に座り、深々と頭を下げた。

「捨吉を救って頂きお礼のしようもない。この者は儂と三十年のつきあいでな・・・儂は前野庄左右衛門と言います」
「海藤修理・・・です」
「旅のお方ですかな?」
「は・・・武者修行の旅です」
「行く宛は?」
「・・・」
「はは・・・これも何かの縁。お好きなだけ御逗留して下さい」

 修理が礼を言うと、戒められた若者に庄左右衛門は向いた。
「万作(ばんさく)殿。これは如何にしたことか?」

 万作と呼ばれた若者は、はっと庄左右衛門を見ると面目なさそうに下を向いた。