海道修理は一路、都への道を登っていった。

 途中、色々な城下町を通り、その回りの地形などを頭に入れた。この頃の武士は如何に各地の情報を知っているかということが、職業的な強みになるのだ。
 城下を離れると流通のための施設や港がある。そして山、川の天然の要害が国境となる。

 馬の飼料や宿泊に金が掛かるのである宿場で手放した。そこから徒歩で都に向かう。路銀も静音の父がくれた香料が主であったので節約せねばならない。
 そして何夜も野宿を重ねて京に辿り着いた。
 そのときは髭や月代の頭の毛は伸びほうだい。頃は七月に入り、衣類も汗と埃にまみれていた。

 修理は下京(しもきょう)に入ろうと思った。上京(かみきょう)は天子のお膝元であり、繁華街である。寺の宿坊も混んでいるし警戒も厳しい。農家や酒造倉、武家屋敷が多い下京の方が怪しまれなくて良いだろう。とにかく泊めてくれる宿坊を探そうと考えた。

 だが、下京の門に着く前にとっぷり日が暮れた。やれやれと思いながら鴨川の土手沿いの道に近づいた時だ。

「ああーっ!た、助けてくれーっ!」
 月が出ていたので鴨川の水がきらきらとしている。そして人がこちらに走ってくる。修理の前で躓いて倒れ、それでも四つんばいで修理の足下まで這ってきた。

「お、お侍様!た、助けて下さい!」

 男の後ろからばらばらと武士の風体をした者どもが追ってきた。
 追われていた男は白髪の初老の男で中間(ちゅうげん)姿だ。長小袖に角帯を締めて後ろを帯にたくし上げて、膝の下まである股引を履いている。

 彼は修理の後ろに這って隠れた。