下瀬政美が所轄署の婦人警官に付き添われてきた。

話を訊きたいと、達郎が警部に頼んだのである。

「御主人は人に恨まれるような人でしたか?」

「いいえ、主人はそんな人ではありませんでした」

下瀬政美は達郎の質問にはっきりした口調で答えた。

夫の死体を見た時はかなり取り乱していたが、今はそんな様子はない。

さすが元社長夫人といったとこか。

「失礼ですが、以前経営されていた会社が倒産したと伺いましたが」

「あれはこちらが罠にはめられたようなものです。恨みこそすれ、恨まれる覚えはありませんわ」

ライバル会社に有能な社員をごっそり引き抜かれたのが原因だったらしい。

思い出したくもない、と言って彼女はため息をついた。

「御主人は今日はずっと部屋にいたんですか?」

「いえ。今日は朝8時から夕方5時までの日勤だったはずです」

それは確認済みです、と浦川警部が付け加えた。

「部屋から盗まれたものはないという事でしたが、それは確かですか?」