「おりゃーっ!」

 突如轟いた奇声とどすんばたんという静音の部屋からの物音に、家人は驚いた。注進を受け、儀太夫も静音の部屋に走る。
 部屋の前に言った途端、ばりと障子が破け、中から内藤が飛び出してきた。一回転して濡れ縁を飛び越して庭に背中から落ちた。
 運良く、柔らかい柴の上だったので直ぐに飛び起きる。

 中から静音が出てきて牛若丸の様にひらりと縁石の上に飛び乗った。浅黄色の小袖と薄い短袴である。宙に舞う長黒髪と花の舞い様な身の流れに皆見とれた。
 うぬと内藤は片鼻を拭い、小袖の袖に腕を戻して片肌脱いだ。小男だが筋肉が盛り上がったその肩に幾条もの刀槍の傷が見える。

 我に返った儀太夫が濡れ縁から叫んだ。
「上総!こ・・・これはどうしたことじゃ!」
「儀太夫!何も言うな!これは儂と静音のいくさじゃ!」
「い・・・いくさ!?」
「儂は静音をこの戦に勝って我がものにする!二人でそのように決めた!何も言うな!」

 儀太夫が静音を向いて聞いた。
「静音!そ・・・それは誠か?」