不甲斐ない子弟を持った譜代家臣達は、一夜、談合し、この一件はことごとく口を閉ざす様に決めた。
 彼らの関心は主君の耳に入れぬ様にあらゆる根回しを行うことだった。
 儀太夫はその場に呼びつけられた。
「・・・海藤修理の逐電の一件を、知らぬ事にすると誓約をしろということか!」
 儀太夫は先代からの宿将であり、現在の主君へ直接ものが言える。だが、諫言も厭わない古武士である儀太夫は、口うるさい年寄りよ、と主君に嫌われている。
 即ち施政の実権は、近従上がりの筆頭家老の率いる取り巻き家老達の手にあるのだ。

 筆頭家老、渡部伯耆守は尊大に言った。
「左様・・・余所者の息子に馬を斬られ、息子の貞操まで盗まれたなどと、御屋形様に言えるか?」
 儀太夫は苦虫を潰した様な顔をした。
 静音のことを理由の一つにして儂に強要しようとか!・・・別に事を荒立てるつもりはないが、仲間に引き入れようと画策する何という肝の小さき奴らよ!
 すくと立った。
「ぎ、儀太夫殿!どうするのか!」
 筆頭家老とその一座は驚いてざわめいた。