その夜、静音は家に帰ると剣道具を入れる袋に、着替えや脚絆など旅に必要なものを詰め始めた。

 すると誰かこちらに来る気配!
 障子を開けて入ってきたのは、二人の兄と二人の姉だった。

「お兄様、お姉様・・・」
 静音は袋を隠す様に後ろに置いた。

「行くのですか?」
 香が聞いた。もう一人の姉も正座した兄達も無言で同じ質問をしていた。
「はい・・・我が儘な静音をお許し下さい」

「これを持って行け」
 兄の惣一郎は、路銀の入った巾着を静音に渡した。
「父上はお前を勘当するじゃろう。お前は無縁となる。自由じゃが、それは生きるには恐ろしいことじゃ。だが、忘るな。我等は常にお前の兄と姉じゃ。修理殿を斬るなりなんなりと思い通りにせよ。そしていつでも帰って来い。我等が父上に取りなす」

 静音は母に一番似ている。
 だが姿形だけではない。その思い込んだら絶対に曲げない気の強さだ。怒った母に平謝りしている父を何度もこの兄姉は見ている。静音はその一途な清冽さを完全に受け継いでいる。これは父でも変えることは出来ないのだ。
 だが今、静音は兄姉にも言わない決意があった。一期の別れを違った気持ちで告げる静音であった。