皇居大広間・天玉院の間。


「おぉ、来たか小龍沢」


月読の血族、月那主宮[ツクナヌシノミヤ]家当主・廉明[レンメイ]が歓迎の意を示す。


現・京都宮内庁特殊現象対策課陰陽室長官である廉明は、深いしわを頬に刻んで須佐乃男の末裔に歩み寄る。


「昨晩は御苦労、清水から礼があったよ」


「いえ…そんな…」


―――任務だし当たり前だろ…


労いの言葉に成二が戸惑う。当たり前の事は当たり前に熟す。そう考えてる為か、いつも言われる礼にも疑問を抱く。


長官は多香子と紘子に視線を移した。


「多香子、当主に相応しい風格になったな。紘子、お前はテレビよりも綺麗だ」


「おじ様、何をおっしゃるんです?」


「何も出てこないですよ…?」


「ハハハ、そうか」


長官は楽しそうに笑う。3人の談笑を傍観していただけで、成二はその中に入る事が出来なかった。