俺の名前は倖田海。
決して“侍田”でも“侍”でも無いし、侍っぽい性格じゃない。
侍や日本史が、ただ好きなだけだ。
そして、もうひとりの侍や日本史好きに、変なあだ名をつけられただけ。
そして、そのもうひとりが目の前でふくれっ面をしている。
…いつもの事だ。
「もーっ、侍先生のアホー!」
そう言って、ダーッと走っていく。
なんなんだ、アイツは。
俺はため息をついてから職員室に戻った。
「なんや、えらい暗い顔してるやん」
隣の席のせいじ先輩が、そう言ってくる。
「いや、なんかね。 年下の彼女が…」
「おお、姫条の事か」
「そうそう…、って、へ!?なんで知ってるんですか!」
「いやあ。 なんとなくそんな感じして、カマかけただけや」
ほんとにこの人は…。
よく人の事見てるんだな。
「まあ、年下の彼女って事で話聞いてくださいよ」
「おう、どしたんや?」
「なんか、『冷たい』とか言われちゃったんですよ」
「はあ、『冷たい』?」
せいじ先輩は首をかしげる。