「父上!薬を買って戻りました!」
 出来るだけ陽気な声で修理は家の破れ戸を開けた。
「・・・ち、父上・・・!」
 父の新右衛門は、暗い部屋の壁に背を付けて片膝を立てて座っていた。伸ばした左手には、嘗て戦場で振り回した三尺三寸の大太刀の鯉口をいまや切ろうと縦に立てて。
 労咳の身体で、洗った帷子(かたびら)に着替え、その体勢になるにどれだけ力を振り絞ったろう、帷子の大きく開いた懐から肋骨が浮き出た老いさらばえた胸が見えた。
 修理は床に上がり父の前にぺたんと座った。
 涙があとからあとから畳に零れる。
 新右衛門は太刀を立て、すわ出陣せんという姿で首を垂れてこときれていた。その大太刀は長く行李に入れてあり、刃こぼれ、錆び付いていたので売ろうにも売れなかった。
 いや、この親子が数打ち物(安物)の刀と言えど、その差し料を売るわけはない。

 葬儀は全く簡素なものだった。
 法華宗の僧に読経を頼み、礼に薬草を渡した。通夜に同僚の下級武士や足軽達が集まってきた。
 皆が祈りを終えた。
 仲間達は肩を落とした修理を激励しようとするが、この顔を見ると何も言えなかった。