「はぁ~~~…」





 距離的には三メートルほど離れているというのに、そのため息は窓際の席に座る綺羅の耳にもはっきりと聞こえてきた。





 綺羅はため息を吐いた人物の方へとわざと視線を向けないように窓の外にばかり目を向けていた。





 別に、俺のせいではないだろうが………





 わざとらしすぎる大きなため息がまるで自分を責めているようで綺羅はその声が聞こえてくるたびに、眉間の皺が深くなっていた。





 あまりにも大きすぎるため息は、綺羅だけではなく周りの目にさえ奇異に見える。


綺羅はその理由を知っているだけまだマシだ。


何も知らないクラスメイトたちは、慈のあまりの不機嫌さに腫れ物に触るように接していた。


これほどに不機嫌な時は、ほっておくのが一番いいのだが、慈の不機嫌の理由を知らない者たちは、親切心もあり、「大丈夫?」と慈に聞いていた。





 あ~あ、あそこまでなると関わったら逆に噛み付かれるぞ。





 綺羅は親切心を出した、哀れな女生徒に心の中で『ご愁傷様』とお悔やみの言葉を述べた。


「なんでもないから、ほっておいて」





 案の定、優しい言葉をかけられたにも関わらず、慈は冷たく突き放した。





 あ~あ、やっぱりな………。