二十一時近くになり、駅前からはポツポツと、一つずつ明かりが消え始めていた。

その頃には人通りもまばらになっていて、雪がやんでいた。

澄み切った冬の空気の中、丸く太った三日月が鮮明に優しい色の光を放っていた。

最低なクリスマスイヴも、あと三時間と少しで終わる。

帰ろうとして歩き出した時、背後から声をかけられてわたしは振り返った。

でも、振り返らなければ良かった。

「真央……何をしてるんだよ」

そう言って、ひどく都合の悪そうな面持ちで突っ立っていたのは、今、最も会いたくなかった亘だった。

隣に居ると思っていた環奈の姿は無かった。

「それは、こっちの台詞だわ。よく、わたしに声を掛けてこれたわね」

しばらく重っ苦しい沈黙が続いたあと、亘が重い口調で言った。

彼はこんな時間でも爽やかで、グレーのスーツもくたびれていなくて、とても良く似合っていた。

「おれの話を聞いてくれないか」

「今さら、話してもどうにもならないでしょうに」

わたしが声を荒げると、亘は爽やかな顔立ちをぐしゃぐしゃに崩して、茶髪の頭を掻いた。

その時、わたしは見なくてもいいものを見てしまったのだ。

亘は左手で、頭を掻いていた。

彼は左利きだ。