環奈(かんな)は、悪魔だ。

そう思いながら、わたしは泣きやむことができなかった。

駅前の大通りにはクリスマスソングが流れ、冬の夕暮れ刻で、クリスマスツリーの明かりがぽつりぽつりと灯り始めていた。

わたしは体の半分を、斧か屶で削ぎ落とされたような気分だった。

大きなクリスマスツリーが立っている大通りは、恋人逹で溢れ返り、聖地となっているのに。

その中をふらふらさ迷いながら、わたしはわんわん泣き叫んでいた。

呆れて、溜め息ひとつ出やしない。

二十五にもなった女が鼻を真っ赤にして、人目もはばからず、ぎゃんぎゃん泣きわめいて歩いているのだから。

一種の気狂い女だ。

擦れ違う恋人逹がいぶかしげに見て、哀れんだ目で振り返るのも無理もないことだ。

聖なる夜の始まりに、わたしは不幸のどん底に落とされた。

12月24日、クリスマスイヴに初雪。

亘(わたる)を、盗まれてしまった。

亘は、わたしの婚約者だ。

わたしの婚約者は、クリスマスイヴに消えた。

「真央(まお)、許して。私、亘の赤ちゃんを産みたいのよ。亘を、私にください」