凍えるほどの寒さの中、吐き出される吐息はミルク色に変わる。

その白く濁る視界の中で、貴方は儚く微笑んだ。


『忘れ物、取ってくるよ』


そう言って私たちに背を向けた貴方。


──駄目!


霧の中に消えていくその背中を、必死になって追いかける。


──駄目!


水の中を歩くかのように、思うように進まない足。それをもどかしく思いながらも懸命に走る。


お願い、待って。

行っちゃ駄目!

行かないで!


声にならない声を上げながら手を伸ばす。

その瞬間。


パアアァァァ────ン……


無情にも響く乾いた音と、湿った灰色のコンクリートの上に倒れる、“彼”の姿。


「いやああああああ!!」


叫びながら飛び起きたそこは、自分のベッドの上で。

肩で浅い呼吸を繰り返しながら、布団を握り締めて蹲る。


また……。

私は“彼”を止められなかった。

夢の中でさえも、彼は儚く散ってゆく。