『もう帰るのか』


少し肌寒い部屋の中、私は手を止める事なく無言のままシャツのボタンを下から順番に留めていく


『なあ、三月…』


背中から寝起きのかすれた低い声が聞えてくる


けれど私は後ろの嘆げかけられた声に振り向きもしなければ、答えもしない


昨日脱いだ自分の服を拾い集めて、ベッドの端に座りながらマイペースにたんたんと身に着ける



『み〜つき』



ベットがきしむ振動と共にガバっと後ろから抱きつかれ、ようやく自分の手の動きがとまる


正確に言えばとめられたと言ったほうが正しいのか


男は私を抱きしめると、こめかみや頬、首筋にゆっくりと唇を落としていって…


『なに?』


そんな男の行動に私は感情のこもらない言葉でそっけなく答えた



『もう少しここにいろよ…まだ三月といたい』