「乙女ソルジャー!しかし…」

壁に強打した肩を押さえながら、九鬼は包丁を持つ戦士を凝視した。

茶色に見えるし…赤みがかった深紫にも見えた。

「乙女…ディープパープルか?」

目の前にいる乙女ソルジャーの色をそう判断しょうとした瞬間、乙女ソルジャーは包丁を投げつけてきた。

避けれたけど、壁に包丁が突き刺さった位置は、明らかに九鬼の額だった。

(殺しに来てる!)

九鬼は眼鏡ケースを取りだし、変身しょうとしたが、眼鏡がかからなかった。

「チッ」

九鬼が舌打ちした瞬間、乙女ソルジャーは目の前で、拳を握り締めると、体を捻るように回転した。


「乙女ビンタ!」

バックアンドブローのようなビンタが、空気を切り裂き、風圧で、校舎の窓ガラスがサッシごと、抉り取られた。

その威力と自らの状況を冷静に判断した九鬼は、後方へとジャンプした。


すると、破壊された窓の近くの出入口から、携帯をいじりながら、蒔絵が校舎から出てきた。

「グリーン!」

九鬼と謎の乙女ソルジャーの間で、足を止めた蒔絵は顔をしかめた。

「え!」

「逃げて!」

九鬼が叫んだが、目を輝かせた蒔絵は振り返り、

「まじかよ!」

走りだし、携帯で破壊された窓をカシャカシャと撮影した。

「すげえ〜!まじ、すげえ〜」

と興奮した後、映り具合を確認しながら、その場を後にした。

別に、九鬼や乙女ソルジャーを見ることもなく…。

ちょっと唖然とした九鬼は、ほおっと胸を撫で下ろした。

「まあ…いいわ。怪我さえしなければ」

九鬼は息を吸うと、ゆっくりと吐き出し、呼吸を整えた。

月影キックで、エネルギーを使ってしまった為、しばらくは乙女ブラックにはなれない。

生身で、相手しなければならない。

(ここは…生徒の出入りが多いわ!場所を変えないと)

九鬼は、手を拝むように前に出すと、謎の乙女ソルジャーとの距離を計りながら、ゆっくりと摺り足で後ろに下がっていった。