何事もなかったように、校門を潜り、家路を帰る蒔絵に、誰かが声をかけた。

「お帰りのところ、すいませ〜ん!ちょっとお時間いいですか?」

携帯を打ちながら、歩く蒔絵の前に、現れた男は名刺を差し出した。

「怪しい者じゃないんですよ。わたくしは、眼鏡の買取販売をしているな・か・のと申します!」

「…」

蒔絵は無視するかのように、歩き続けるけど、別にスピードを上げる訳でもない。

「あのですねえ〜。あなたが持ってる緑の眼鏡!あれは、大変貴重な物となっておりまして…」

「…」

「今でしたら、大変お高く買い取らせて頂きますけど…」

「……だりい…」

「あのですね。買い取らせて…」

「だりい」

「…………」

「だりい」



「き、貴様!」

男はキレた。

「だりい」

「さっきから、だりいだりいを連発しやがって!もうやめた!やめた!」

男はスーツのネクタイを緩めると、

「我が名は、サギシ!この名を聞いて、生きていた者はいない」

サギシは、万能ナイフを取り出した。缶詰めとかも開けれるやつだ。

「ふあ〜あ…だりい」 

ナイフを向けられても、欠伸をして、携帯を打ち続ける蒔絵。

「き、貴様あ!」

サギシは、蒔絵の携帯を左手で払った。

蒔絵の手から、携帯が落ちた。

「携帯依存性か!この現代っ子があ!」

「…」

落ちた携帯を見つめる蒔絵の肩が、わなわなと震え出す。

「さあ!眼鏡を渡せ!」

ナイフをちらつかせるサギシに、蒔絵はゆっくりと顔を向けると、絞りだすように声を出した。

「ウザイ」



その瞬間、蒔絵の鞄の中で、眼鏡ケースが開き、眼鏡が飛び出した。


「き、貴様!変身できるのか!」

狼狽えるサギシの前に、乙女グリーンが光臨した。

「ウザイ」

きりっとサギシを睨むグリーンに、サギシはわなわなと震えながら、ナイフを両手に持ち、

「死ね!」

襲い掛かった。