母さん、昔よくここに来たね

僕と沙知と母さんの3人で・・

「達也、沙知にも乗らせてあげてよ」

ベンチに座ると

母さんはいつも決まってそう言った

あの頃

ずいぶん広い屋上に見えたけど

今、こうして見るとやけに狭い

すみっこにあった

ソフトクリーム屋のおっさん

すげえおもしろかったなあ

おもいきりゴーカートを乗り回し

メリーゴーランドにも乗った

やたら懐かしい

だけど、今は

すっかり錆び付いてひどい所だ

まるで僕の心の中みたいだ

ばあちゃんがよく言ってた

「命は粗末にしたらだめだ」って

だけど今、僕はここに立っている

住み慣れた家の屋根がよく見える

僕の部屋の窓も半分見える

部屋の電気はつけてきた


母さん、僕ずっと前から

日記を書いていたんだ

誰にも気づかれないようにね

いつごろからだろう

僕は無口になった

話をするのが面倒になった

だけど、今むしょうに話がしたい

誰でもいいから聞いてほしい

隠し続けてきた日記

今日は机の上に置いてきた


天国のじいちゃん

僕のそばにいるなら

僕を助けてくれ


急に足が震えはじめた


もしも・・

もしも誰か

今の僕に気がついてくれたら・・


いや、こんなビルの屋上に

誰もくるはずない


涙でぼんやりしてきた


これでいいんだ・・

そう自分に言いきかせ

震える足に手をやり

僕はゆっくりと靴を脱いだ

・・・