清々しい朝を迎え、小鳥も楽しそうに歌を歌っている頃。
ある大きな屋敷の書斎で、リフィーアは目の前に座る男性と、その隣に立つ青年に向かって大きな溜め息を吐いていた。

「えー、どうしても、ダメ?」

「何千回も言ってますが、嫌です。絶対に嫌です。何が何でも死んでも嫌です」

大きな椅子に腰掛け、いかにも威厳たっぷりな金髪の男性が小首を傾げて自分を見つめる姿に、声を上げそうになるのを抑えながらリフィーアは首を振って言った。

「大体、私にはそんな権利はありませんし、賢くありません。公爵になるのは無理です」

「でも、本来なら君が一番目の後継者だぞ? 公爵だった伯父上の子供なんだし」

「確かに父が生きていたらそうだと思いますが、その父も私が生まれてすぐに亡くなり、今、私は庶民です。今、公爵なのは叔父様で、後継者はサイラードお兄様でしょう?」

小さい頃から何度も何度も答えたことをリフィーアはもう一度、静かに叔父とその息子に言った。
会う度に同じことを言ってくる叔父と従兄に、リフィーアは内心、辟易する。

「確かに今の状況だとそうなんだが、私はリフィを補佐するのが夢だから」

にっこりと笑顔で答え、サイラードは従妹に近付く。
彼の笑顔は肖像画でしか見たことがない死んだ父と、今、目の前で座っている叔父のマティウスにもそっくりだ。
時々、死んだ父に言われているような感覚にリフィーアは陥ってしまう。死んだ父と話したことはないが。