ナディアは両親に向けて手紙を書いていた。

 これまでは自分のことで手いっぱいだったが、これからは心の余裕がある。

 最後に署名をした時、真後ろから声がした。

「そろそろいいか?」

 まったく気配を感じさせなかったために、ナディアがびくりとして振り返る。

「もう、誰かと思ったわ」

「この部屋に俺以外の者が来ると思うのか」

 ナディアの私室はふたりの寝室と続き部屋になっている。寝室を挟んで続いているのがゲルハルトの部屋だ。

「メイドたちかもしれないでしょ?」

「俺たちの関係を公表してから一度も夜に訪れていないと思うが」