濁った呼吸が不快な雑音となってドアのない石造りの部屋に響く。
ガラスのない窓から吹きすさぶ冷たい風は、囚われの身となったこの国の元王妃ナディア・ジエ・フアールを苦しめた。
彼女が罪人として〝灰の塔〟の最上階に連れてこられたのはひと月前。
目も眩むような高さの塔は窓からしか出入りができず、子爵令嬢として育った彼女の心を容易に打ち砕いた。
身体を横たえても満足に足を伸ばせないほど狭い空間と、一日にたった一度しか差し入れられないぬるい水と硬い黒パン。
窓から下を覗けば、視界に映る屋根は遥か遠い。足を踏み出せば地面に叩きつけられて呆気なく肉塊へと変わるだろう。