「ほら、桜十葉。一緒に荷物まとめよ?」


裕翔くんが優しく微笑んで手を差し出してきたので私は複雑な気持ち半分、嬉しい気持ち半分でその手を握った。


「……うん!」


私は裕翔くんに荷造りを手伝ってもらった。元々持っているものも少なかった事もあって一時間くらいで準備を終えることが出来た。


***


私は今、裕翔くんの大きな豪邸の前にいる。

何度見ても慣れない家。私もお屋敷に住んではいるけれど人の家に感動したりすることは少なくない。


「ほら、家を見つめるんじゃなくて俺を見つめてよ」


不機嫌そうな声を出した裕翔くんが横からグイッと両手で私の頬を包む。

綺麗な瞳に見つめられて、心の奥まで見透かされてしまっているようだ。


「桜十葉?どうしたの?」

「あっ……、いや、……むむむ」

「そんな可愛い声で濁さないで。何、俺の顔見惚れてたとか?」

「っ……!!」

「え、何その反応。本当に?(うぬ)惚れちゃってもいいの?」


いたずらっ子のような顔をしてそう言ってくる裕翔くんだけど、その顔は嬉しさが隠しきれていない子供のようだ。

私は真っ赤な顔をしてコクンと小さく頷いた。

私が頷いた途端、甘い香りが顔いっぱいに広がる。そして裕翔くんに抱きしめられているんだと気づくとまた全身の脈がドクンドクンと激しく脈打つ。

それから裕翔くんにそっと背中を押されながら、私はその豪邸の中へと入って行った。