翌朝、保健室に行くと五十嵐くんはもう待っていた。
ドア近くの壁にもたれかかるようにしている。

こうやって見ると、五十嵐くんって背は高いし、足も長い。

女子生徒に人気があるのも当たり前だよね。
私に気づいた五十嵐くんは、こちらに手を振ってくれる。

「おはよ」

「おはよう。早いんだね」

「渡したいものがあったから」

彼はそう言うと学生服のポケットから何かを出して、渡してきた。

「これは……名札?」

「俺の前の中学の名札。ちょっと傷とかついちゃってるけど、これがあったら……その、味方がいるってことわかるかなって。星野さんが、教室でも怖くないように」

五十嵐くんから受け取った名札を見る。

【光聖中学校 水無瀬(みなせ) 慎介】

あれ……でも、名字が。ていうことはもしかして……。
五十嵐くんはこめかみの辺りを掻きながら、少し恥ずかしそうに言う。

「親が離婚したから、名字変わったんだよ。今は父さんの名字になってる。実はまださ、五十嵐って呼ばれるのにもあんまり慣れてないんだよね」

「そうなんだ……。もし、辛いことを話させているならごめんね」

「気にすることないよ。でも、良かったらだけどさ。星野さんには『慎介』って呼んでほしい」

彼の耳が少し赤くなっている。私も耳まで熱くなってきているのがわかる。

「わかった。慎介……くん。それなら、私のことも『凛』って呼んでいいから」

「……呼び捨てでもいい?」

「いいよ」

私が笑うと、慎介くんはガッツボーズした。

「よっしゃ、よろしくな! り、凛!」

私を名前で呼ぶことを、こんなに喜ぶ人がいるなんてなんだかおかしい。
笑いが落ち着いてから、慎介くんの昔の名札をスクールバッグに付ける。

――私はひとりじゃない。
こんなにも心強い味方がいる。。
私も……強くならなきゃいけない。強くなりたい。

保健室から、三年の教室の方をまっすぐに見た。
きっと、大丈夫。

「それじゃ、行ってくるね」
「凛、今日は俺も一緒にいく」

……正直、その言葉に少し安心したのは秘密だ。