新年度早々、幸太も大手外資系企業の
内定を勝ち取った。幸運なことに
この企業がある駅と私の大学は駅が
同じだ。幸太が卒業してからも、
もしかしたら会える機会があるかも
しれないと思うと、嬉しさ倍増だ。
幸太の卒業までの1年はなかなか
会えなかった。いくら内定を
貰ったからと言っても
インターンシップに参加したり、
卒論に追われたり。時間を作っては
偶然を装い幸太の学校付近や
自宅付近を彷徨いた。
もはやストーカーなのでは!?と
思ったりもしたが、会えないと
幸太不足に陥ってしまう為、
私には必要な時間だった。 
会えたとしても極僅かで話して終わり。
その少しの会話で私の心を満たしていた。

20歳になった時、満を持して父に
再度仕事を手伝わせて欲しいと
お願いした。前回のときは思いつきで 
行き、一瞬で却下されたから
今回は私なりに今ままで勉強
してきたことを踏まえて、
事業改正案と計画書を一緒に持って
行った。父は
“粗はあるが、頑張ったな”と子会社だが
入る事を認めてくれた。
そこからは仕事も勉強も
我武者羅だった。
ただ、ふとした瞬間思い出す。 幸太と七海さんの事を。この頃からだろうか、
近くにいられれば、
会えるだけで良いという考え
だけではどうにもならなくなっている
自分がいる事にに気付いたのは。
2人で一緒にいる姿を見ないのは
せめてもの救いだったが、
思っても思っても返しては貰えない、
幸太へのやり場のない想い。
無性に泣き叫びたくなる時がある。
自分自身の思いに限界が
近づいているのを感じていた。

3年になりゼミが決まると集まる日は
遅くなることが多くなり、
駅で幸太に会える事が少しだけ増えた。
幸太は会う度に生き生きしていた。
仕事が楽しくて遣り甲斐がある。
尊敬出来る先輩に共に頑張っている同期、いい仲間にも恵まれているようだった。
出会った頃以上の輝きある幸太を見て 
どこに諦められる要素があるんだろう。
入学した頃は同じ駅だと喜んだ事が仇と
なるなんて思いもしなかった。片想い歴が更新される度にもう無理かもしれないと
弱音を吐きたくなる。
辛くて辛くて仕方がない。
この間も幸太は七海さんとの日々を
育んでいるのだと思うとやり切れない
思い。それにもう既に付き合って
5年が経過している。お互いに社会人で
いつ結婚の話が出ても可笑しくない
だろう。もし結婚が決まって幸太から
聞かされる時がきたら、
私は耐えられない。
本当に見切りをつけなければ
ならないのかもしれない。
私が大学を卒業してこの駅を
使わなくなったらきっと幸太と
会う事はなくなる。兄に会う為に実家に
来る事がもしかしたらあるかもしれないが、それなら私が実家を出ればいい。
卒業まであと2年…
それまでに私の思いに終止符を打とう。