私達は入籍した日より一緒に暮らし
始めた。
今まで片想いしかしてこなかった私に、
誰かとお付き合いをしたことなど
あるはずがない。交際期間を
すっ飛ばしての結婚生活。
これから始まろうとしている生活は 
未知の世界だった。それでも夜は
期待してしまう。
“子どもが欲しい”“一緒に寝て欲しい”
とは伝えた。幸太は私に触れてくれる
だろうか。こういう時はどうすれば
いいのか。初心者には分からない
事だらけ。高校生の方が上手く
やるだろう。
両手を握りしめ、不安と緊張に
押しつぶされそうになりながら
寝室に踏み入れた。
新しく買ったベットに幸太が
寝そべっている。俯き加減で側に寄り、
顔を上げた途端、幸太と目が合った。
次の瞬間、勢いよく手を引っ張られ
気が付くと幸太の胸の中にいた。
“止めるか?”と聞かれたが、私にそんな
選択肢は一切ない。想って、想って
やっとここまできたのだ。
“絶対やめない”力強く言った。
それからは無我夢中だった。
幸太が触れる至るところが熱く、
心地良く、意識が飛びそうになる。
知識でしか知らない行為が
こんな感覚に包まれるなんて、
自分が自分ではないようだった。

暫くは幸太の仕事が忙しそうで、
日に日にやつれていくのが分かった。
朝は早く起きて出社し、夜遅くに
帰ってくる。家では食事して、
お風呂に入って、寝るだけという生活。
それでも幸太が家に帰ってきてくれる事が、“いってきます”“ただいま”
“いただきます”“ごちそうさま”
と言ってもらえる事が嬉しくて
幸太よりも早く起きて準備し、
夜も帰りを待った。食事は疲れている
ときでも食べやすい物を用意するように
心掛けた。これは本当に料理教室に
通った甲斐があった。
幸太は“先に寝てて良い”と
言ったが、幸太が頑張ってる時に寝てる
場合じゃない。それに藤岡製作所の件を
父に頼むと言った事で、幸太には
卒業後の就職は父の会社で
腰掛けOLをすると言ってしまったのだ。
仕事も腰掛け、家でも適当だとは
思われたくなかった。
“私がしたいだけだし幸太程、
仕事も忙しくないから気にしないで”
と伝えた。実際仕事は忙しくない
訳ではないし、家に持ち帰って
やることも多かった。それでも
幸太との時間が守られるのであれば
辛くも何ともなかった。偽りの結婚
だとしても、諦めようとしていた時期に
比べると遥かに気持ちが満たされていた。