後の世に『竜神』と呼ばれることになる、その異形(いぎょう)の存在は、九人の乙女を選び、試すように問いかけた。

「お前は、この世で最も強い力とは何だと思う?」

 当時、まだ何者でもなかった無垢(むく)なる乙女たちは、それぞれが、それぞれの苦境(くきょう)にあえいでいた。


「そんなの『武力』に決まっているじゃない。この世は所詮(しょせん)、力がモノを言うのよ」
 ある乙女は挑戦(ちょうせん)的にそう言った。

「剣も(やり)も、お金が無ければ買えません。結局は『富』が全てを支配しているのではないでしょうか」
 ある乙女は考えた末にそう答えた。

「もしも未来を()ることができたなら、どんな不幸も()けることができるのに……」
 ある乙女は夢見るように(つぶや)いた。

「不死の肉体……永遠の『命』があれば……無敵なのでは?」

 気まぐれな問いかけに、乙女たちは思い思いの答えを返す。


 『竜神』は、彼女たちの導き出した答え通りの力を、手のひら大の水晶の(たま)()めて贈った。
 力を手にした乙女たちは、竜神の宝玉を守る聖女として、人々の崇敬の念を集めるようになる。

 やがて、乙女たちを建国の祖とし、大陸に九つの国が(おこ)った。
 
 九つの宝玉のひとつ『光の宝玉』を守るリヒトシュライフェ王国も、そのひとつ。
 その建国の姫の名は、マリア。『竜神』に問いをかけられた八番目の乙女だった。 

 マリアは『竜神』にこう答えた。
「この世が人によって動かされているならば、()の心を動かすものこそが、最も強い力でしょう」と……。

 その答えに『竜神』は笑った。
「おもしろい。人とは時に、思いもよらぬ答えを出してくるものよ。ならばお前には、人を魅了する力を与えよう。人の心を()らえ、(うば)い、(おの)がものとする力を……」