長い史学の授業の後には、(つか)()休憩(きゅうけい)時間が入る。

 シャーリィはいつものように、廊下に出て、(ひか)えている騎士に声をかけた。
「リアン、お待たせ。さ、お散歩に行きましょう」
「はっ」
 騎士は短く返答し、シャーリィの一歩後について歩き出す。

 彼、フローリアン・クローゼは、入れ替わりの激しいシャーリィの親衛隊の中では一番の古株であり、彼女の一番の『お気に入り』でもあった。
「ねぇリアン。今日の私、どこか違うと思わない?」

 思わせぶりに微笑み、シャーリィは廊下(ろうか)の中央で、くるりと一回転してみせた。
 (はし)をわざと長く残して結んだリボンが、白金の髪に(から)まり、ふわりと揺れる。
 フローリアンは困惑(こんわく)したように(まゆ)を寄せた。

「あの……もしや、ドレスを新調なさいましたか?」
「正解!よく分かったわね。どう?似合う?リアンに一番に感想を聞こうと思っていたの」
 無邪気に問いを重ねながら、シャーリィは長いドレスの(すそ)を持ち、再び回転してみせる。

 肩と鎖骨(さこつ)(あらわ)にしたそのドレスは、それまで彼女が身に()けてきたものとは違う、やや大人びたデザインのものだった。

 たっぷりのシャーリングを寄せ、女性らしくふくらみを持たせた胸元のすぐ下には、細いリボンの飾り帯。
 それは一見無造作(むぞうさ)に巻きつけてあるように見えて、絶妙な配置で腰まで続き、華奢(きゃしゃ)なウエストラインを際立(きわだ)たせる。

 優美なマーメイドラインを描くスカートは、ドレープもフリルも無い無地の純白。ただし(すそ)縁取(ふちど)りに、ごく(ひか)え目に繊細(せんさい)な金糸の刺繍(ししゅう)(ほどこ)してあった。

 ドレス自体の華美さより、身にまとった際のシルエットの美しさを最重視して作られた、シンプルなドレス。
 それはかえってシャーリィ自身の魅力を高め、まだあどけなさを残す少女に、ほのかな色香をも()えていた。

「お美しいです……。とても……」
 (まぶ)しいものを見るように目を細め、フローリアンは声を上擦(うわず)らせた。
 その目が、一瞬ひどく苦しげに(ゆが)む。しかし、シャーリィは気づかなかった。

 シャーリィは満足したように(うなず)き、再び前を向いて歩き出す。
 その足取りは彼女の機嫌の良さを表し、(はず)むように軽やかだった。
 その後をついてくるフローリアンの、ぎこちないほどに重い足取りとはうらはらに……。