王家所有地への『散策』とは言え、国の最重要人物である宝玉姫が行くとなれば、それなりの警護(けいご)が必要となる。

 軽い気持ちで(うなず)いたシャーリィだったが、武装し騎馬(きば)した親衛隊員達に周りを囲まれ、おまけにせっかく馬に乗ったというのに、走らせることは許されず、ただ馬丁(ばてい)手綱(たづな)を引かれて行くだけでは、気分転換どころか何の面白味(おもしろみ)もない。
 
 途中休憩(とちゅうきゅうけい)に立ち寄った泉で、ぼんやり気を滅入(めい)らせていると、アーベントがどこか悪戯(いたずら)っぽい笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
 
「せっかく散策に出られても、これではつまらないでしょう?姫様」
「そうね……あぁ、いえ。そんなことはないわよ。これでも、それなりに気分転換になっているわ」
「お気を(つか)っていただかなくて結構(けっこう)ですよ。そこで姫様、物は相談なのですが……二人で抜け出しませんか?」
 こっそり耳に吹き込まれ、シャーリィは目を丸くした。