竜神と呼ばれる『神』が、人々の前に姿を現したのは、まだ文明も芽吹かぬ人類の黎明期(れいめいき)

 その名の通り竜の姿をしたその神は、原始的な狩猟生活をしていた大陸の民に、食糧となる植物を自ら栽培(さいばい)する(すべ)を教え、文明の(いしずえ)となる様々な知識を与え、人々を導いていった。
 また、時にはその力で、人々を災害から救いもした。人々は当然のごとく竜神を(あが)め、深く(した)った。
 
 しかし、やがて竜神は「もう役目は終えた」と言い残し、大陸を去っていく。
 だが、その旅立ちの前に、大陸の民に九つの神宝を贈った。
 
 それは竜神の力を封じ込めた宝玉。光を受けると、竜神の身体と同じく白銀に輝く、美しい水晶球だった。
 竜神は、九人の乙女を選び、宝玉の()(びと)の任を与え、彼女達とその血を引く者にしか宝玉を(あつか)えぬよう制約をかけた。
 そして、決してこの宝玉を争いに用いぬよう言い残し、去っていった。
 
 やがて、大陸の人々はこの乙女達の下、九つの国を築いた。
 九つの国は、竜神の宝玉がもたらす恩恵の下、豊かに栄えていった。だが、人々はいつしか神との誓いを忘れ、欲望に走る。

 ――竜神の宝玉の力は国を富ませる。一つでも充分だが、二つあればもっと豊かになれるはず。そして、もしその全てを手に入れることができたなら、世界の全てを手中に収めることも夢ではない。
 
 政略結婚を()り返せば、宝玉守りの血脈も、また入り乱れる。
 たとえ他国の宝玉であろうとも、その宝玉守りの血を受け()ぐならば、理論上は(あやつ)ることが可能なはず……。
 
 やがて、他国の宝玉を狙い、侵略を開始する国が現れた。
 争いは争いを生み、大陸中を戦火が()(めぐ)った。
 人々に恩恵を与えてきたはずの竜神の宝玉は最悪の凶器と化し、人々に死をもたらし、大地を変形させた。

 十数年にもわたる、長く暗い戦乱の時代。それを(おさ)めたのは、ただ一人の少女だった。