夜の病院は、まるで誰もいないかのように静かだった。

 白い床に白い壁。消毒か何かなんだろう、独特な匂い。最低限の明かりしか点いていないから、昼間とは違い薄暗い通路。

 壁沿いに三人掛けのソファーベンチがあり、俺はそこに座って人を待っている。

 藍乃は救急車で運ばれて、そのまま処置室へ入ってしまった。俺は家族じゃないから中へは入れてもらえなかったんだ。

 藍乃の自宅の番号は知っていたので連絡を入れた。こういう時は幼馴染みって便利だな、と思う。

 出たのはおばさん――母親で、藍乃が救急で運ばれた事と病院名を伝えると、すぐに父親とここへ向かうと言って乱暴に電話を切った。

 昨日から帰ってこない藍乃を探していた、とも言っていた。俺を責めるような事はなかったが、そう思っているのは明白だった。

 もう俺に出来る事はないから帰宅してもいい、と看護師には言われていた。だけど、藍乃がこうなってしまったのは俺の責任だと思ってる。

 それをちゃんと謝ろうと、藍乃の無事を祈りながら両親を待っていた。