「····だれ、か····あいつら····たす、け····」

 魔獣が多く住む魔の森。
ここはそんな危険地帯に程近い、少し開けた場所。

 仲間を助けたくて、呻く。

 むせるような····俺と仲間達の血の臭い。
わかっている。
皆もう····。

 だけど願わずにいられない。

 血溜まりの中にいる····俺。
手足が千切れているはずなのに、もう、痛みも感じない····寒い。

 目の前が暗く塗り潰されていく感覚。

「大丈夫?」

 若くて張りのある、幼い高い声。
意識が少しだけ浮上した。

 閉じかけた目を開ける。

 ぼやけた視界がはっきりしてくる。

 誰····少年?

 暗闇の中、月明かりに照らされほんのり浮かび上がるその顔は、黒目の可愛らしい、小さな少年だ。
長い黒髪を耳にかけながら立ってこちらを見下ろしていた。

 顔色は青白い。
幽霊がいたら、こんな感じだろうか?
恐ろしさは全く感じない。

「ねぇ、おじさん、名前は?
右手と左足が向こうにぶっ飛んでるけど、痛くない?」

 耳に心地よい、穏やかそうな声だ。
いつまでも聞き入っていたくなる。
人の手足がぶっ飛んでいるような、仲間の体もかなり損傷しているような凄惨なはずの光景には全くそぐわない反応だ。

 だからなのか、失血が酷くて頭がぼうっとしているからなのか、質問の内容を理解するのに時間がかかる。

「おじさん?」
「····グ····ラン····」

 聞こえていないと思ったのだろうか?
今度は隣にしゃがみこんで、体を揺すられる。
ついでに頭上の丸みのある耳にも軽く触れてくる。

 うかがうように呼びかけられ、何とか名前だけかすれる声で伝える。

 それだけで残りの体力を持っていかれた。
····寒くて、眠い。

「グランさん、次に目覚めたら僕のお手伝いしてくれる?
そしたら他の人達は亡くなってて無理だけど、グランさんは助けてあげる。
でも遺品くらいは持ち帰るよ?」

 もう、駄目だ。
再び瞼が下がり、意識が薄れていく。

 あいつらの遺品····せめて()()を家族の元に····。

 俺は藁にもすがる思いで何とか首を縦に振った。

「約束、ね」

 閉じた瞼の向こうで金色の光に包まれたのを感じ、体が少し温かくなった気がしたところで完全に意識は闇にのまれた。


 この時はまだ知らなかった。
俺が少年だと思っていた可愛らしいこの子が、顔に似合わずしれっとえげつない性格を発揮して()()を振り回してくれる事も、とんでもない秘密を抱えた哀しい俺の番だった事も。

 これはチートでむちゃくちゃ可愛らしい俺の番を血反吐を吐きながら何とか伴侶にした俺の奔走物語。