手の甲がジンジンと痛んだ。
おばさんの話を聞いている間、ずっと私の手を握っていた深春の力はどんどん強くなっていて、最後は爪が食い込んで、血が滲んでいた。

深春がジッと、自分の爪を見つめている。
爪の先がちょっと赤くなっているのは、私の血だと思う。

私も手の甲の赤色を見つめた。
流れ落ちるほどでは無い、滲んだ血。
遺伝子の半分か、それくらいは深春と同じなんだ。

化学なんて全然得意じゃないし、そんな専門的なことはまったく知らない。
親子や姉妹間でどれくらいの遺伝子が配列されるのか分からないけれど、同じものが流れているのは、本当なんだ。

「はい、まふゆちゃん。絆創膏。」

おばさんが持ってきてくれた絆創膏を受け取った。
深春が小さい声で、ごめんねって呟いた。

声は弱々しかったけれど、深春の目はギラギラと、獲物を捕らえるような視線で鋭かった。

「父さん、言ったよね…。」

「何を?」

「私とまふゆが野外学習をサボって、まふゆのお父さんが謝りに来た日。子ども達が間違ったことは、経験者の自分達が正しい道を教えてあげるんだって。」

「正しい道を示しただろ?欲しい物はこうやって手に入れるんだ。お前達の絆は決して壊れない。最初からそう決まっていたし、父さん達がそうしてあげたんだ。」

「ふざけないでよ!」

穏やかに微笑むおじさんとは正反対に、深春は怒鳴りつけた。
深春が声を荒げても、おじさんもおばさんも、態度を変えようとはしなかった。

「深春、落ち着きなさい。まふゆちゃんを見習わないと。まふゆちゃんはずっと落ち着いているじゃないか。ははっ…。やっぱり“お姉ちゃん”だなぁ。」

そんなわけない。
落ち着いてなんかいない。
ずっと、おばさんの話を聞いていたこの長い時間。

ずっと胸がザワザワして、血液が逆流してきそうで、吐きそうで、叫び出しそうだった。
キリキリと食い込んでいく深春の爪が、私を制止してくれるストッパーだったんだ。

こんなのは、悲劇以外の何でも無い。
深春と姉妹で良かった、友達よりも恋人よりも、切れない絆で結ばれていて良かった。

なんて、そんな風には思えない。
なんてことをしてくれたのだろう。
深春がおばさんの娘だと知った時、おばさんの今の名前を知った時、ママだって私と深春が姉妹なんだって気付いたはずだ。

私と深春の命は欲望そのものだ。
利用される為だけに、認められなかった愛を押し付ける為だけに産み出された欲望の塊。

私と深春は親友のフリすら出来ない。
いつか法律が認めてくれると信じて、恋人として貫き通すことも出来ない。

切れない絆が、遺伝子が、私達を引き裂いた。
愛してはいけない。恋愛対象として。
深春を求めてはいけない。

目の前のおじさんもおばさんも憎い。
何が神様だ。
神様なんてこの世には居ない!