一学期の終業式。
明日から夏休みが始まる。

本当だったら約一ヶ月半、あんまり会えなくなるけれど、私達は沢山の約束をした。

大量の夏休みの宿題も、図書館で一緒にするつもりだ。

私と深春が夏休み中会うことをママは嫌がるだろうけれど、別に正直に話そうとも思わない。
そうじゃなくてもママと会話することは、もうほとんど無くなっていて、その悲しい日常にも慣れ始めていた。

「深春、あのね。」

「んー?」

終業式の帰り。
コンビニに寄ってアイスを買った。
深春はパタパタと成績表で自分を扇ぎながら、みかん味のアイスキャンディーを齧った。

ポタポタとアイスは溶け始めている。
私も慌ててぶどう味のアイスを舐めた。

扇いでも扇いでも蒸し暑い風がくるだけだと深春はゴネた。

深春にまだ、ママと深春のお母さんのことを話せていない。
ここ数日、深春から家族のことで様子が変わったとかの話は聞いていないから、きっと深春のお母さんも“日常”を過ごしているのだろう。

私にもはっきりと分からない事情を話すのは難しいけれど、このままにしておくわけにはいかないと思った。

「あのさ、ちょっと涼しい場所に行かない?」

「涼しい場所ってどこー。」

「室内で…できれば人が居ない場所。」

「そんなのどっちかの家しかないじゃんー。」

深春は夏には弱いらしい。応える声もふにゃふにゃだった。

ボタッと、私が持っていたぶどう味のアイスキャンディーが地面に落ちた。
暑さで脆くなっていたアイスは、アスファルトの熱でどんどん溶けていく。

私の手にはアイスの棒だけが残った。
棒を握る手に付いたぶどう味の液体を、深春がペロッと舐めた。

「ぬるい。」

深春が舐めた所を、自分でも舐めた。
冷たかったはずのアイスが落ちた小指の先は、夏のせいか、深春の舌の熱か、冷たさは少しも感じない。

握ったままのアイスの棒を私から受け取って、既に食べ終わっていた自分の棒と一緒に深春はゴミ箱に捨てた。

「行こう。」

深春が歩き出す。

「二人きりになれる所がいいんでしょう?」

どんどん歩いていく深春に小走りで追いついた。
もうすぐ13時になる。
太陽はまだまだ高くて、短命なんて信じられないくらいに蝉の声がうるさい。