…だって、わたしが二階堂さんに連れて行かれようとしているのに。

いつもみたいに守ってくれるどころか、一度たりとも目も合わせてくれないんだから。



わたしに背を向ける千隼くんの姿が、涙で滲む。


「泣く必要はないよ、咲姫。これからは、僕がずっとそばにいるから」


二階堂さんはわたしの肩に手を添えると、千隼くんから遠ざけるように、わたしを連れてその場を離れた。



その日、千隼くんは荷物をまとめると、202の部屋から出て行った。


二階堂さんに守られることとなったわたしのそばにはいれないと言って。


二階堂さんが千隼くんに、出ていくように言ったのか…。

それとも、千隼くんの意志で出ていったのかはわからない。


どちらにしても、千隼くんのいないこの部屋は、わたし1人だけで過ごすには広すぎて…。