「…さっきはごめん。突然、あんなことしてっ…」


わたしに、許可なくキスしたことを気にしていたようだった。


「周りを黙らせるには、あの方法しか思いつかなくて…つい」

「ううん、大丈夫だよ。それに、本当にキスされたわけじゃなかったしっ…」


――そう。

あのとき、千隼くんはわたしの唇に自分の親指を添えて、その上にキスしてきた。


だから、唇と唇が触れ合ったわけではない。


だけど、千隼くんの背中しか見えなかったみんなにとって、そのポージングからわたしにキスしたと思い込んでしまった。


「咲姫にキスなんてしたら、マジで慧さんに殺されそうだしなっ」


もしお父さんが、わたしが男の子とキスしたと知ったら…。

嘆き悲しみ、怒り狂うような気がする。


…だけど、その相手が千隼くんだったら?