「はーい、いきますよ!ちょっと、お父さん、もっと寄ってください」

「お父さんって、僕ですかね?それとも——」

「え、俺ですか?」

 ざわつく親族にカメラマンは手を挙げながら大きな声で叫ぶ。

「そうですよ!一ノ瀬さんところのお父さんです!もっと新郎さんの方に寄ってください」


 ——カシャ。

 大袈裟なほど大きなカメラから鳴るその音は私が持つスマホの音よりはるかに大きく、この広い式場でも堂々と鳴り響いた。

「父さん、ネクタイ曲がってるよ」

 君のその言葉に二人のお義父さんが反応する。

「あぁ、これは飯村の方の父さんね」

 すぐに付け足す君の嬉しそうな顔をきっと君のお母さんも、おじいさんも、天国から見ているよ。




 誰かを想ってついた嘘。重ねた嘘が作り上げた過去。

 それがこんなにも幸せな未来を連れてくるなんて、きっと誰も知らなかったと思う。


 嘘は正義か、それとも悪か。


 その答えを決めるのは私ではないのかもしれない。

 だけど、誰かのためにつく嘘はきっと正義で、きっとすごく美しい。