この土地に立つのは何年振りだろう。懐かしい匂いと景色が俺の体内で蠢く。二十三歳になった俺を思い出の場所は快く受け入れてくれた。
何度も足繁く通ったこの公園の桜が「おかえり」と言ってくれているようで、心に残っていた傷跡はもうすっかり無くなっていた。
ブランコに座るその人にスマホを向ける。音を鳴らすまできっと彼女は気づかないから、音量を最大まで引き上げてみる。
——カシャ。
大きすぎるその音に驚いた彼女がこちらを向く。そうして立ち上がった彼女が俺にスマホを向けた。画面越しにお互いを映すと、少しずつその距離を縮めていく。
——カシャ。
鳴ったのは俺のものではなかった。控えめに響かせたそのスマホから顔を覗かせて、
「記念に一枚、いただきました」
そう言った彼女の笑顔を目に焼き付ける。
「何の記念?」
俺が尋ねると、彼女はスマホを下ろして笑顔を見せる。
「匠真が、帰ってきた記念。——おかえり、匠真」
そう言った彼女を抱きしめると、その体が震えていることが分かった。涙を必死に堪えながら笑顔で迎えてくれたその優しさを俺は抱きしめた。
「ただいま、琴音」
彼女は何度も頷きながら小さな腕で力一杯に俺を抱きしめてくれた。そっと体を離すとその僅かな距離をすぐに埋めてしまいたくなる。だけどその前に、伝えなければいけない。ずっと言いたかった言葉を、彼女に届けないといけない。
「琴音、遅くなってごめん。待っててくれてありがとう。——俺は琴音が好きだよ。今までも、これからも、ずっと琴音が好きだよ」
彼女の瞳に浮かんだ涙がその容量を越えて流れ出す。すぐにそれを手で拭い、俺の前で必死に笑ってみせる彼女の姿が健気で、愛おしくて、俺はもう一度彼女を抱きしめた。
「私も匠真が好き。ずっと、ずっと好きだよ。——約束、守ってくれてありがとう」
救われていく心が思い出の場所に流れ出ていく。過去は今日という未来のためにあったのだと、思い知る。
たくさん遠回りをした。長かったその道のりで俺はどれだけの人に助けられてきただろう。どれだけの人に愛されて、背中を押されてきただろう。
俺はこれからそれらを全て返していけるだろうか。不安がない訳じゃない。ただ、君が傍にいてくれるのなら何だってできる気がするんだ。
「夢じゃないよね?」
俺の腕の中で呟く彼女になんと言えば信じてもらえるだろう。夢じゃないよ、なんて普通に言ったところで信じてもらえないかもしれない。それくらい長い間、彼女を待たせてしまった。だから俺は聞く。
「夢だったらどうする?」
「それなら醒めたくない」
夢はいつだって曖昧でその記憶は一瞬で朧げなものへと変わってしまう。目が覚めると夢を見ていたことら忘れている。そんな不思議な世界に俺は今まで何度も迷い込んだ。もし君も同じなら、俺は君を待つよ。
「だったら俺は、琴音が夢から醒めるまで待ってるよ」
今年の春が連れてきたのは、出会いでも別れでもない。
『再会』だった。