行き先も伝えられないまま電車に乗り、近くの繁華街に出た。地下にあるモノトーンな居酒屋へと案内されたが、こんなに雰囲気のある居酒屋なんて来たことがない。そういえばいつもよりオシャレに見える彼女に、「なんか今日気合入ってる?」と冗談まじりに問いかけると、

「はい、そりゃもちろん。合コンなんで」

 と、真顔で返された。あぁそうか、合コンかぁ……とはならない。抗議だ、抗議。

「ちょ、ちょっと待って!合コンなんて聞いてないよ!」

「はい、言ったら琴音さん来てくれないでしょ?」

 そう言われるともう何も言えず、私の抗議は一瞬で論破された。

 私だって合コンの一度や二度くらい経験がある。もちろん自分が幹事だとかいうことはなく、友達に誘われて断りきれずだったり、人数合わせで半ば無理矢理だったりした訳だけど、それでも初めてな訳ではない。ただ、もう一年以上行っていなかったし、何より私はこういう場が苦手だ。

 突然の出来事に対応しきれない私の体はその温度を上げ、今すぐ帰りたいと悲鳴をあげ始めた。予約してある個室まで向かいながら周りを見遣ると、来店している客は身なりの整えられた人ばかりだった。歩きながら改めて自分の格好を気にする。社会人じゃあるまいし、大学生の合コンに女性側がスーツだなんて言語道断だ。逃げ出したい気持ちがピークに達したところで、これから居座る個室へ辿り着いた。

 まだ誰も来ていない空っぽの箱に足を踏み入れた私たちは、ひとまず席に座ってここまでノンストップで来た自分達にひと時の休息を与えた。

「琴音さん、怒ってます?」

 綺麗に整えられた爪がオレンジがかった照明と共に光る手で、火照った顔を軽く仰ぎながら友梨ちゃんが言った。

「いや、怒ってはないけど……」

「なら良かった!今日は楽しみましょうね!」

 私の『……』に続く言葉なんて想像しようともしない彼女の楽観的な思考は、私の心までも楽観的にしてくれたようで、ここまで来てしまった以上はこの場を楽しもうという気持ちが私にも生まれてきた。