1997年、7月

私、小学6年生、西村亜依子が好きな物はあまり多くの人に共感されない。

そしてよく変わり者と言われる。

好きな戦国武将は毛利元就

好きな天気は雨

「普通の人は織田信長や晴れなんかを選ぶみたいよ」

同じクラスの田中明菜に言われた。

「広島県人は毛利元就選ばんかい!」

「ちなみに亜依子の好きな人は?」

「もえる人」

「え?熱い人?情熱的な人って事?」

「いや萌える人!胸キュンさせる人!」

「なにそれウケる」

手を叩きながら笑われた。

「いつか電車に乗った王子様現れないかな」

「え?白馬じゃなくて?」

「白馬は現実味ないでしょ」

「せめて車じゃなくて?」

「車だと王子じゃなくておじさんでしょ」

「じゃあ亜依子は電車で私は自転車に乗った王子様に出会いたいね」

二人馬鹿な恋の妄想話しをよく学校帰りにしてた。

「じゃあね」

「また明日のバレエでね」

私は家に帰り、ランドセルを下ろしあっつい茶をしばいていた。

「あっつい茶って婆さんみたいよね。つか飲むをしばくって言うのも婆さんだね」

そう言ってオレンジジュースを飲んでる小学5年の弟の真(まこと)に言われた。

「ほっとけ」

お供は顎が砕けるぐらいに硬いゲンコツ煎餅だ。

バリバリボリボリ食いながら、広島のローカル番組の広島100点パパを見てると弟が注目させてきたので渋々視線を送った。

「お茶と煎餅食ってると渋滞してまうー」

そう言って床に転がっていた。

(実にくだらん)

人気お笑い芸人ニューオールドのギャグをやってるんだろうけど、入りもオチも落第点だ。雑過ぎる。まだ100点パパのカバ顔の名物アナウンサーを見てる方が良い。

「この急須のお茶かけたらもっと上手く転がれるかもよ?」

「いや、怖い怖い怖い怖いやめて!」

本当にお茶をかける訳はなくその後、冷めた視線を再びテレビに戻し見てると真は

「ふぁー!」

とか

「ふぉー!」

奇声で笑わせにかかってきた。

そして最後はくすぐってきた。

「こちょこちょこちょこちょー」

「ふんっ!」

その手を振り解いた。

弟はお調子者で私をいつも笑わせようとちょっかいを出して来ていた。