駅の人通りの多い道の端、僕は立ち尽くしていた。

「…ですから〜、いま街角アンケートを取らせていただいていて!高校生ですもんね??ほんのっ、ほんの五分程ですからっ!簡単なアンケートなんですよ~!」

 僕の目の前にはせかせか喋る、アンケートを取っているというお姉さん。

 …まただ。また僕は街頭に立っている人に声を掛けられた…

 この前は三十分近い塾案内の電話、二日前は僕が忙しいのに道案内、昨日は熱く語る募金のお兄さん…

 僕はこのタイプの人が苦手だ。
 でも一生懸命話をしてくれていると思うと話を切ることができない。

「あのっ…いえ、僕…っ」

 断れない。

 なんて言って切ったらいいんだろう…

 …あの子だったら…
 『双見』だったら、なんて断るかな…


「あ〜、いたっ!!」

 聞き覚えのある声が僕の後ろからした。
 最近自分の家族の声と同じくらい聞いている、僕のちょっと苦手で、けっこう安心するこの声…

「魚住っ!探したよ~!」

 振り返ると双見は、呆れたような安心したような、そんな表情で僕の横にやってくる。

「双見…」

 双見は僕の待ち合わせの相手である、僕の彼女だ。

 僕の横に立った双見は、僕を一瞬見たあとアンケートのお姉さんに言った。

「なんですか〜?私たちデートなんで、彼を連れて行かないでくれません??」

 お姉さんに負けじと早口でそう言い、ニッコリと笑う双見。

 こういうときの双見は、僕にとってかなり頼りになる存在だ。

「行こ!!」

 僕の手を引く双見。

「え、うん…」

 僕からすれば凄いこと。僕たちに話し掛け続けるお姉さんを、双見は物ともせずすり抜けて。

 …でも今さっきの双見の笑顔、少し怖かったな…