放課後、私は莉茉ちゃんのアドバイス通り、本屋さんに寄ってみることにした。

 本を読むのって大好き。

 辛い出来事があっても、本を読んでいれば忘れられる。
 
 だからできれば本屋さんでアルバイトができたらいいなあ、と思っていたんだけど……。

「求人は……無いかぁ」

 店のどこを見回してもアルバイトの貼り紙が出ていない。

 私はそそくさと書店を出た。

 あんまり長居すると、本が欲しくなっちゃうからね。

「はあ」

 トボトボと、元来た道を戻る。

 足元には長く黒い影。

 いつの間にか、辺りは夕闇に包まれていた。

 もうこんな時間。

 早く帰らなくちゃ。

 お夕飯も作らなくちゃいけないし……。

「はあ」

 お腹も空いたし、お金もないし、何より心細い。

 はーあ。これから私、一人でどうやって生きていけばいいんだろう。

 私が落ち込んでいると、ふと一件の見慣れない和菓子屋さんが目に飛び込んできた。

 木でできた看板には「兎月堂」という文字が見えた。

「兎月堂……うげつ……どう?」

 ぐう、とお腹が鳴る。

 私、読書も好きだけど、甘いお菓子も大好きなんだよね。

 おまんじゅう一個ぐらいなら、そんなに高くないから大丈夫だよね?

 そう自分に言い訳すると、私は藍色ののれんをくぐった。