その日の放課後も、バイトは入っていた。

 やだなあ。なんだか気まずいな。

 そんなことを考えながら、兎月堂へと出勤する。だけど――。

「やあ、花帆ちゃん」

 店頭に立っていたのは、悠一さんだった。

「あれっ、秋葉は……」

 私が尋ねると、悠一さんは首を横に振った。

「そういえば、まだ来てないね。学校から帰ってきて、疲れたからバイトの時間まで少し仮眠するって言ってたけど……」

「そうなんですか?」

 私はチラリと時計を見た。

 確かに、バイトが始まる時間まであと五分ほどある。

「悪いけど、そろそろ時間だから、花帆ちゃん、秋葉のこと起こしてきてくれないかな」

「はい、分かりました」

 私は悠一さんに言われ、秋葉の部屋へと向かった。

 見慣れた玄関に、見慣れたリビング。

 叔母さんと暮らし始めて、この家を出て、まだそんなに経っていない。

 なのに、何だかすごく懐かしい。

 ――って、感傷に浸ってる場合じゃなかった。秋葉を起こさなきゃ。