コンコン。

 私は、意を決して秋葉の部屋のドアをノックした。

「あのね、秋葉」

 私が何か言おうとする前に、ガチャリとドアが開いた。

「――聞こえてた。叔母さんと住むんだって? バイトも辞めるって」

 無表情のまま言う秋葉。

「あ、うん、そうなんだ」

 なんだ、聞こえてたんだ。

「ま、良かったんじゃねーの」

「……うん。それでね」

  私はギュッと拳を握りしめ、思い切って切り出した。

「ニセの彼氏彼女の関係も、やめにしない?」

 秋葉はハッと顔を上げ、少し間を置いた後にうなずいた。

「……ああ、そうだな。その方がいいのかも」

 秋葉は右手を差し出した。

「今まであんがと」

「……うん」

 私はその手をギュッと握りしめた。

「……明日からは、赤の他人だな」

「…………うん」

 “赤の他人”

 ――その言葉に、なぜだかすごく胸が痛んだ。

 でも、きっとこれでいいんだ。

 だって私たちは、元々赤の他人だった。

 同居生活やアルバイトが無ければ、私たちはクラスで話すらしないような関係だったんだから。

 これできっと良かったんだ。

 元の関係に戻るだけ。

 だけど……どうしてこんなにも、胸が痛むんだろう。