「リョウくん?おはよ」

「んーっ……あき?」

「ご飯出来てるよ」


俺の記憶は少しずつだが
薄れていっている。


「リョウくんの好きなものだよ」

「ありがとう。今行く」


俺の大事な人
あき

忘れたくないのに
朝起きると分からなくなる


「今日どうするー?買い物行くけど」


絶対これは
昨日決めたことだ。

でもあきは
俺が忘れているというのではなく
今、自分が考えた事のように話してくれる


「行こうかな。仕事も落ち着いたし」

「じゃあリョウくんの服買いに行こ」

「うん?」

「季節の変わり目ですからね!
ついでに私のも買おうかな」

「じゃあ俺が選ぶ!」

「じゃあ決まりね!
着替えとか準備すませておいてー
片付けたら声かけるからね」



俺たちのお決まりだ。
いつも忘れてしまうから。

最初はイライラした。
喧嘩も多かった。

分かってるのにって
でもあきはめげずに傍に居てくれる。



俺は
出かける身支度をする
持って行くものは事前に用意してある


「リョウくん?」

あきが片付けを終えて
自分の準備もすませて顔を出す


「出かけられそうだね!」

「おう、行こう」


久しぶりのデート。
俺の調子も良くなかったから
ずっと我慢させてしまった。



お出かけする時は
絶対手を繋ぐ。

あきは
最初の頃すごく恥ずかしがっていた
でも最近は嬉しそうにしてくれる


ひとつひとつの事が俺には
とても大事なこと。


「ここだよ!!
リョウくんに似合うと思ってたの」



普段入らない服屋さんに
あきは連れてきてくれた。


「来てきて、ほら!
リョウくん絶対これ可愛い」


少しダボッとしたトレーナー
ロングコート
太めのボトム
等など
どんどんあきは決めていく。


「あき?たのしい?」

「もちろん!!
リョウくん大事にしてくれるから
選びがいがあるよ」


ニコニコしながら
服を見ている



俺はいつまでこの笑顔を
覚えてられるんだろうな…

遠くで俺はあきの楽しそうな姿を見ていた


「リョウくん?どうしたの?!
疲れた?ごめんね。
お会計してくるから待ってて」


あきは慌てていた
俺は近くの鏡で自分の顔を見た。

「泣きそうになってたのか…」

ボソッと呟く…



俺たちはお店を出たあと
近くのカフェに入った。


「リョウくんごめんね。
夢中になりすぎちゃった」


あきの顔がしょんぼりしている


また
俺のせいだ。

「大丈夫なんだよ。
でもね俺さ…あきの笑顔見てたら
いつまで俺はあきの事覚えてられるんだろうなって考えてしまった」

「リョウくん…」

「ごめん!!ほんとにごめん!!!
もう俺だめだよな。
あきに心配させてばっかり」

「いいんだよ!!リョウくん
もっと頼ってよ」



あきは俺の腕を引っ張って
お店を出る


近くの公園
ベンチに座らされる

あきも隣に座り
カバンからスマホを取り出す


「リョウくん!!
忘れちゃうなら残そう!!」

「えっ?」

「写真!!毎月わたしがアルバム作る。」


あきは片手でスマホを持つ
片手は俺の腕に絡められ
グッとほっぺたを近づける


「リョウくん、わたしはずっと大好きだから
ずっとずっとそばに居るから」

「あき……」

「だから泣かないでよ。
リョウくんが忘れちゃうなら
わたしが覚えてる!!」

「おぅ…」

「笑顔!!!
今日から記念日いっぱい作ろ。
リョウくんとのスタート記念日。
笑って、撮るよ!!」



画面を見るとあきは
俺の大好きな笑顔で笑ってる


「撮るよー!!はいチーズ」



-チュッ-


「リョウくん!?」


ニッと笑ってあきを見ると
耳が真っ赤だった

「これも想い出にしてくれるんだろ?
ほら、次はあきの番だよ。」


手を繋ぎなおして
立ち上がる


「俺もあきの分の服選ぶ!
ずっと大事にしてくれるよな?」

「ばかじゃないの
当たり前じゃん!!」




手を繋いで歩き出す
このあと俺の服の倍以上
あきの服を買った。

あきはずっと笑顔だった。











「ただいまー」

「片付けなきゃねー
ていうかわたしら買いすぎでしょ」


ケタケタ笑ってるあき
袋をあけて仕分けをしようとする所を
俺の近くに呼ぶ


「ここに座って」


俺の隣をぽんぽんと叩く


「ん?どうしたの」

「あき。手だして」


不思議そうな顔で
右手を出すあき

俺は左手を掴む
その腕にピンクゴールドの
可愛いブレスレットを付ける


「あき。こんな安物でごめん。
でもね、今度は俺あきにでっかいダイヤがついた指輪あげるから」

「リョウくん」

「ちゃんと覚えておいて。
俺すぐ忘れちゃうから」

ハハッと笑ってみせる。


「あきは俺のだから。」

「当たり前じゃん。
でっかいダイヤ覚えておくからね!」


あきの目が潤んでいた。


「おいで、あき」



手を広げる
あきはギュと抱きついてくる

俺は優しくあきの頭を撫でる


「今日はありがとうな。
これも想い出になる?」


スマホを取り出す

「うん!!なる!!」



俺はあきを後ろから抱きしめ
カメラを構える


「いくよ?はいチーズ」




今日2枚目の想い出。



これから
何枚も何枚も想い出が増えるんだろう。


俺が忘れてしまっても
これを見たら思い出せるかな。


ずっと
ほんとは覚えてたいよ。